作品について

原作(プッチーニ《トスカ》)のあらすじ

【第1幕】時は1800年6月。ローマはナポレオン率いるフランス革命軍に対し、反革命の立場と取ることとなり、警視総監スカルピアのもと革命派の弾圧が進んでいた。そのようなある日、革命家アンジェロッティが脱獄を果たし、聖ヴァッレ教会にある先祖の礼拝堂に逃げ込んだ。彼の妹アッタヴァンティ夫人が、そこに追手の目を逃れるための変装道具等を仕込んでいたのだ。

 ヴァッレ教会では、やはり革命思想を持つ画家カヴァラドッシが、祭壇画を描きながら恋人トスカのことを思い浮かべていた[アリア〈妙なる調和〉]。カヴァラドッシにとってもローマは危険な場所だが、彼は歌姫トスカと過ごしたいがために留まっていたのだ。アンジェロッティが礼拝堂に身を隠していることに気が付いたカヴァラドッシは、衰弱している彼に自分の籠の食べ物を与えるが、そこへちょうどトスカの声が聞こえてくる。

 ひとまずアンジェロッティを再び礼拝堂に隠し、トスカを出迎えたカヴァラドッシだったが、彼女は目ざとくカヴァラドッシの様子がいつもと違うことを察する。嫉妬深いトスカは、カヴァラドッシがさっきまで他の女性といたのではと疑うと共に、カヴァラドッシの描いている肖像画のモデルがアッタヴァンティ夫人であることに気が付いて激昂する。カヴァラドッシが優しくなだめると、トスカは「あの肖像画の目を(自分と同じく)黒くしてね」と言い残し、立ち去ってゆく。

 再び1人になったカヴァラドッシは、アンジェロッティに当面の隠れ家として、自分とトスカの別荘と、さらにその庭に古井戸があることを教える。そこへちょうど脱獄囚を追う合図の大砲が鳴ったので、カヴァラドッシは自分もアンジェロッティと共に別荘に向かう。

 ちょうどヴァッレ教会では、反革命軍がナポレオンに勝っているという噂と、ファルネーゼ宮殿でトスカをソリストにした戦勝祝いのカンタータをやることになったという知らせが入り、人々は喜びに浮かれていた。ところがそこへアンジェロッティを追っていたスカルピアと警官達が現れる。スカルピアは礼拝堂にアッタヴァンティ夫人の扇子と食べ物がすっかり無くなったカヴァラドッシの籠が落ちていることに気が付き、夫人の手引きでアンジェロッティが教会に現れていたこと、そしてカヴァラドッシが逃走を手助けしたであろうことを察する。

 そこへトスカが現れた(前述の戦勝祝いのカンタータに呼ばれたトスカは、夜の逢瀬が出来なくなってしまったことを恋人に伝えに来たのだ)。トスカの嫉妬深さを知るスカルピアは、彼女に先ほど拾ったアッタヴァンティ夫人の扇子を突き付ける。カヴァラドッシが自分を裏切り、アッタヴァンティ夫人と別荘に行ったと思い込んだトスカは、扇子を手に別荘へと駆けてゆく。それを見たスカルピアは手下の刑事にトスカを尾行させる。彼の本当の狙いは革命家アンジェロッティとカヴァラドッシを捕らえるのみならず、トスカを我が物にすることだったのだ。教会で祈る人々を背景に、彼は1人トスカへの邪な欲望を歌う[アリア〈テ・デウム〉]。

 

【第1幕と第2幕の間に…】トスカが別荘に着くと、そこにはカヴァラドッシとアンジェロッティがいて、扇子にまつわる誤解は解けた。彼女が尾行されていたことに気が付いたカヴァラドッシは、アンジェロッティを前述の庭の古井戸に隠し、トスカは戦勝祝いのカンタータへ向かうのであった。だが時既に遅し。スカルピアの手下達がその直後に現れ、カヴァラドッシは連行されてしまう。

 

【第2幕】夕刻のファルネーゼ宮の執務室では、スカルピアが憲兵シャルローネと共に、尾行した刑事スポレッタの帰りを待っていた。窓からは戦勝祝いのカンタータが始まった音色が漏れている。

 ようやく現れたスポレッタは、尾行した先の別荘でアンジェロッティを見つけられなかったこと、だが代わりにカヴァラドッシを連行してきたことを告げる。カヴァラドッシと対面したスカルピアはアンジェロッティを匿っているだろうと問い詰めるが、カヴァラドッシは断固否定する。そこでスカルピアはカヴァラドッシを拷問部屋に閉じ込めると、ちょうどカンタータを歌い終わったトスカを呼び出し、拷問に苦しむ恋人の悲鳴を聞かせ、アンジェロッティの居場所「庭の古井戸」を白状させる。

 傷だらけで拷問部屋から運び出されたカヴァラドッシは、スポレッタが庭の古井戸に走ってゆくのを見て、白状したトスカを責める。そこへシャルローネを介して、実は「戦勝」の噂は嘘で、反革命軍は敗走中だという知らせが飛び込んでくる。カヴァラドッシはスカルピアを前に革命の雄叫びをあげ、ついに獄中へと連れて行かれてしまうのであった。

 絶望の面持ちのトスカと2人きりになったスカルピアは、いよいよ欲望を露にし、トスカにカヴァラドッシの命と引き換えに、自分のものになることを迫る。トスカはなぜこのような運命をもたらすのかと天に嘆く[アリア〈歌に生き、愛に生き〉]矢先に、古井戸から戻ったスポレッタから、居場所を突き止められたアンジェロッティは自殺したという報告が入る。次に殺されるのはカヴァラドッシの番だと悟ったトスカは、ついにスカルピアに頷くのであった。

 スカルピアはスポレッタに「パルミエーリ伯爵と同じように」という文言で、銃殺刑を空砲にすることを命じる。これを信じたトスカは、自分でそのことをカヴァラドッシに告げたいということ、そして彼と国外に出るための通行証が欲しいことを訴える。スカルピアは立ち去ろうとするスポレッタに、明け方トスカを獄へ案内することを命じると、通行証を書き始める。

 通行証が書き上がったあかつきにはついにスカルピアの思うままである…と絶望するトスカの目に、テーブルのうえに残ったナイフが留まる。トスカは、通行証を書き終えて彼女を抱き寄せようとしたスカルピアを刺し、通行証を彼の亡骸からもぎ取ると、部屋を去ってゆくのであった。

 

【第3幕】死刑が執り行われる暁時のサンタンジェロ城。牢で最期を待つばかりとなったカヴァラドッシは、星空のもとトスカのことを想っていた[アリア〈星は光りぬ〉]。そこへスポレッタの手引きで現れたトスカが、通行証を見せながら空砲の銃殺刑の後には自由であることを、嬉しそうに話す。カヴァラドッシは「舞台の私みたいに、上手に死ぬ演技をしてね」と語るトスカと、愛の言葉を交わすと、現れた看守達に連れられてゆく。

 ところが、スカルピアがカヴァラドッシを助ける気などなかった(おそらく「パルミエーリ伯爵」もそのようなかたちで騙されたのであろう)。銃殺刑は空砲ではなく、カヴァラドッシは絶命する。倒れたカヴァラドッシのもとに、ついに自由だと駆け寄ったトスカは、彼がこと切れていることに驚き嘆く。さらにそこへスカルピアの殺害を知った追手が迫り、もはやこれまでと悟ったトスカは「スカルピア、神の御前で」の一言と共に、城の塔から身を投げるのであった。

 

 

今回の作品について

 時は1802年9月のローマ。オペラ《トスカ》の主人公達がこの世を去った後、街をめぐる情勢は疾風のごとく変わっていた。かつては反革命の態度を取っていたはずのローマであったが、ついに教皇さえもナポレオンと協約を結び、街はいっそうナポレオンの傘下になりつつあった。

 

 スカルピア亡き後に街の警備を取り持つようになったシャルローネと、その後も各所でこき使われるスポレッタは、鮮明に残るかつての主人の記憶と、変わりゆく情勢との狭間で、やりきれない想いを抱えていた。それと同時に、2人の関係にも軋轢が生じていた。歌姫トスカ、カヴァラドッシ、スカルピア、アンジェロッティの全員が一挙に命を落としたあの日、2人はそれぞれの胸に重大な秘密を宿し、またそのことを互いに察しつつあったのだ。

 

そのような中、王宮にダヴィッドと名乗る画家が出入りするようになる。時の権力者を美しく描いた彼の絵は、あっという間にナポレオンのお気に入りとなっていた。だが、この画家が本当に描こうと苦慮していたのは、猛々しい軍人の絵などでは無く「ある歌姫の肖像」であった。彼が筆の先に見ようとするものは、次第にシャルローネとスポレッタの過去を掘り起こし、2人の現在を蝕んでゆく。